ベルティングとは、歌唱の指導現場やミュージカルの舞台で、「明るく張った、力強い高音」「地声のまま高い音を強く出すような歌い方・声質」を指して使われる呼び名です。

ミュージカルの歌声を調べた研究(Bourne, Garnier, 2012)によると、「チェスティ・ベルト」「トワンギー・ベルト」のように、現場では呼び方がいくつかに分かれることがあります。ただしこの研究で6名の女性ミュージカル歌手の声を比べたところ、これらの呼び方の違うベルティング同士に、はっきりした違いは見つかりませんでした。比べたのは、声の大きさ、明るさ、そして声帯の合わさり方です。呼び方の数だけ体の使い方が分かれているわけではありません。

声帯の閉じ方が歌い方で変わるかは、研究の間で結果が一致していない

ベルティングのときに声帯の閉じ方が変わるかどうかは、研究の間で結果が一致していません。

Bourne, Garnier(2012)は、ベルティングはM1(地声の出し方)、クラシック寄りの歌い方はM2(裏声の出し方)で出されていると解釈しています。調べたのは女性のミュージカル歌手6名で、そのうち声帯の動きを測れたのは5名でした。人の声には、低い音向けのM1と高い音向けのM2という代表的な2つの出し方があります(詳しくはM1・M2)。この研究が比べたのは、歌手それぞれがベルティングとクラシック寄りの歌い方の両方で歌える高さ(F#4〜D5)での声です。

この解釈のもとになっているのは、声帯どうしの合わさり方です。震えの1回ごとに、閉じているときと開いているときのどちらが長いかを測ると、2つの歌い方ではっきり違っていました。

一方、プロの女性歌手20名を調べた研究(Lebowitz, Baken, 2011)では、合わさり方に、歌い方によるはっきりした差は出ませんでした。決められた音の並びを、ベルティングとクラシック寄りの歌い方の両方で歌った声です。2つの研究は歌った音の高さも、母音を伸ばすか音階を歌うかという課題も違うため、この食い違いが条件の違いから来ているのかどうかは分かっていません。

「明るく強い」音色の作られ方のひとつは、声道が強める帯域を第2倍音に合わせること

ベルティングの「明るく強い」という音色の正体のひとつは、声道(のどから口までの空間)が強める帯域を、声に含まれる第2倍音の高さに合わせていることです。

人の声は、倍音と呼ばれる、いろいろな高さの音が重なってできた音です。いちばん低い音を第1倍音として、その2倍・3倍……の高さの音を第2倍音・第3倍音……と数えます。声道の形は、どの高さの帯域を強めるかを決めています。この、声道が強める特定の帯域の呼び名が「フォルマント」です。

同じ研究(Bourne, Garnier, 2012)によると、ベルティングでは歌手たちが、いちばん低いフォルマント(第1フォルマント)の山(周りより音が強く出ている部分)を、第2倍音にぴったり合わせていました。クラシック寄りの歌い方では、山はもっと低いところにとどまっていました。この合わせ方が見られたのは、C5までの高さです。ここで合わせているのはいちばん低いフォルマントで、シンギング・フォルマントのように声の高い方の成分に現れる山とは別のものです。

模式図 声道が強める帯域は、1つではありません ベルティングで第2倍音に合わせているのは、いちばん低い第1フォルマントです 第1フォルマント 第2フォルマント シンギング・フォルマント 低い音 音の高さ(周波数) 高い音

ただし、この合わせ方がベルティングだけに現れるとは限りません。同じ著者たちが男性のミュージカル歌手6名を調べた研究(Bourne ほか, 2016)では、クラシック寄りの歌い方を含む3つの歌い方すべてで、この合わせ方が一貫して見られました。

模式図 ① 源:声帯が出す倍音 高い倍音ほどなだらかに弱くなる(土台) 低い音 音の高さ(周波数) 高い音 ② フィルター:声道の増幅カーブ(第1フォルマント) 声道の形が「どの高さを強めるか」を決める。音ではなく増幅のクセ 山の中心(強める場所) 低い音 音の高さ(周波数) 高い音 ③ 結果:耳に届く声 山が重なった第2倍音だけが持ち上がる。フォルマントは倍音間の強さの差となって現れる 第2倍音 低い音 音の高さ(周波数) 高い音

なぜHASSEI METERは「ベルティングかどうか」を判定しないのか

HASSEI METER は、「ベルティングができているか」を判定するのではなく、抜け(SPR)芯(PEAK)クリア(CPPS)という、音として測れる結果だけを見ます。

ベルティングは、明るく強い音色を作る声の出し方の総称であり、同じ「明るく強い高音」という結果でも、声帯や声道の使い方には複数のやり方がありえます。どのやり方を使っているかを見分けるには専門的な機械での測定が必要で、HASSEI METER が扱う音の解析だけでは分かりません。

ベルティングが音の大きさや明るさ(力強い高音)に注目した呼び名であるのに対し、ミックスボイスはM1とM2の切り替わり方に注目した呼び名です。

次に読むもの

  • 倍音 — オペラ歌手のまねで音色(声の質)が変わるように、強められる帯域は声の高さとは別に動くことを知る
  • ミックスボイス — 研究では、地声・裏声とは別の出し方は見つからず、どちらかの出し方のまま、もう一方の音色に近づけていると説明されていることを知る
  • 3つの指標 — ベルティングかどうかは見分けられなくても、音から何が分かるのかを知る

M1・M2

おおまかには地声がM1、裏声がM2。声帯の震え方の違いによる、2つの声の出し方の呼び名です。

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倍音

一つの音に聞こえる声の中に、実際には重なっている、高さの違う音のことです。もとになる音(基音)と、その整数倍の高さの音が並びます。

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シンギング・フォルマント

声に含まれる高い方の成分に現れる強い山のことです。声が遠くまで届くことに関わるとされ、男性の話し声については別の名前で報告されています。

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SPR

低い方の帯域と高い方の帯域の落差を表す数字です。HASSEI METER では「抜け」として扱います。

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PEAK

声の高い方の成分にできる山の鋭さを表す、HASSEI METER独自の指標です。「芯」として扱います。

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CPPS

息漏れの少なさと結びつく、声の規則正しさを表す数字です。HASSEI METER では「クリア」として扱います。

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ミックスボイス

歌の指導の現場で「地声と裏声の中間のような、切り替えが目立たない声」を指して使われる呼び名です。

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references / 出典

  1. Bourne, T., & Garnier, M. (2012). Physiological and acoustic characteristics of the female music theatre voice. Journal of the Acoustical Society of America, 131(2), 1586-1594.
  2. Bourne, T., Garnier, M., & Samson, A. (2016). Physiological and acoustic characteristics of the male music theatre voice. Journal of the Acoustical Society of America, 140(1), 610.
  3. Lebowitz, A., & Baken, R. J. (2011). Correlates of the belt voice: A broader examination. Journal of Voice, 25(2), 159-165.