M1・M2とは、のどの奥にある声帯の震え方の違いによる、2つの声の出し方を指す呼び名です。低い音を出すのに向いたM1と、高い音を出すのに向いたM2があります。M1は「地声」「通常の声」、M2は「裏声」(男性なら「ファルセット」、女性なら「ヘッドボイス」)と呼ばれることが多いのですが、呼び方は人によって揺れます。

M1とM2の違いは、声帯のどの深さまでが震えるかで説明されている

M1とM2でいちばん違うのは、声帯のどのくらいの深さまでが震えるかだと説明されています。M1では奥のほうの層まで震えに加わり、M2では表面に近い部分だけが震えます(Roubeau ほか, 2009)。

ただし、これは声帯を直接見て確かめたことではありません。Roubeau ほかが使ったのは、のどの外から声帯の動きを測る機械です。M1からM2へ移ると、記録される動きが急に小さくなります。震えている部分が減ったからではないか、というのが論文の見立てです。

M1とM2で出せる高さは、平均1オクターブ重なる

M1で出せる高さの上のほうと、M2で出せる高さの下のほうが、平均1オクターブほど重なっています(Roubeau ほか, 2009)。歌の訓練を受けた人も受けていない人も含む男女42名を調べた研究により明らかになりました。

重なる高さの範囲は男女でほとんど変わらず、そこではどちらの出し方でも同じ高さの音を出せます。

M1(低い音を出すのに向いた出し方) M2(高い音を出すのに向いた出し方) 平均1オクターブ分重なる 低い音 高い音 音域 模式図

重なりを調べたのと同じ42名から、M1の上端(M1で出せるいちばん高い音)の平均も分かっています。男性でF#4、女性でG#4です。ただしこれは、母音「あ」で半音ずつ音域をたどる課題での平均で、歌で使える上限ではありません。人による差も大きく、M1の音域の広さは男性で前後およそ5半音ばらついていました。半音は、ピアノでとなり合う鍵盤1つ分の幅です。

切り替わる場所は、決まった一か所ではない

M1からM2へ切り替わる高さを測った研究はありますが、どう測ったかによって結果が変わります。

まず、声を高くしていったときと低くしていったときで違います(Roubeau ほか, 2009)。

調べ方男性女性
高くしていったときBb3(238Hz)Eb4(312Hz)
低くしていったときG3(195Hz)C#4(279Hz)

高くしていったときと低くしていったときのずれは、男性で約3半音、女性で約2半音です。

歌の訓練を受けた人も受けていない人も含む男女19名の平均です。高くしていったときはM1からM2へ、低くしていったときはM2からM1へ切り替わります。音名は、チューナーやピアノのアプリに表示されるものと同じ書き方です。

つまりその間の高さでは、高くしていったときにはまだM1、低くしていったときにはまだM2で出していることになります。このずれがあること自体が、M1とM2が部分的に重なるという以前から知られた考えの裏づけになる、というのが論文の説明です。

ここで切り替わった高さと、M1の上端は、同じものではありません。測った人も課題も違います。上端の平均(男性でF#4、女性でG#4)は半音ずつ音域をたどる課題で測った高さで、こちらは声をなめらかに高くしたり低くしたりしたときに切り替わった場所です。

切り替わる高さは、声の強さによっても違う結果が出ています(Cardoso ほか, 2023)。

声の強さ高くしていったときの高さ
弱い声B3(247Hz)
強い声D#4(311Hz)

弱い声と強い声で約4半音違います。

合唱団のテノール(男性の中では高いほうの声の分類)の中央値です。この高さを特定できたのは、弱い声で10名、強い声で9名です。

ただし調べた人数が少なく、この違いを確かなものとは言えません。この研究で人数がまとまっていたのはテノールだけで、ほかの声の分類は1名から5名です。

研究で調べた合唱団員では、切り替わりがはっきり現れない人のほうが多かった

そもそも切り替わりの場所を特定できた人は、どの条件でも、調べた合唱団員67名の3割に届きませんでした(Cardoso ほか, 2023)。

調べ方弱い声強い声
高くしていったとき16名20名
低くしていったとき11名15名

以上は、切り替わりの場所を特定できた人数です。ここまでに挙げた切り替わりの高さは、どちらの研究でも、切り替わりを特定できた人たちのものだけです。

自分の切り替わりがはっきり現れないのは、めずらしいことではありません。この研究の著者は、調べた相手が合唱で歌ってきた人たちだったために切り替わりが目立たなかったのではないか、と述べています。

ただし、この見立ては確かめられていません。この研究は著者自身が予備的なものと位置づけており、一人ひとりの練習量は記録されていません。課題も歌ではなく、母音で声をなめらかに上下させるものです。

声の出し方は、M0からM3まで4種類に分けて整理されている

Roubeau ほか(2009)は、声帯の動きを機械で測る方法を使って、人が声を出すときのやり方をM0からM3まで4種類に整理しました。エッジボイスで扱う出し方は、このうちM1よりもさらに低い「M0」にあたります。M3は、人の声でいちばん高い音域の出し方です。話し声でも歌でもめったに使われず、研究も少ないため、性質はまだよく分かっていません(Roubeau ほか, 2009)。

ミックスボイスとベルティングは、それぞれ別のことに注目した呼び名

ミックスボイスはM1とM2の切り替わり方に注目した呼び名、ベルティングは音の大きさや明るさ(力強い高音)に注目した呼び名です。

次に読むもの

  • ミックスボイス — M1とM2の中間と言われる声が、この2つとは別の出し方なのかを知る
  • ベルティング — 明るく強い音色がどう作られているかと、声帯の閉じ方については研究の結果が一致していないことを知る
  • エッジボイス — プツプツという音を手がかりに、声帯が閉じる動きを確かめる練習をする

ミックスボイス

歌の指導の現場で「地声と裏声の中間のような、切り替えが目立たない声」を指して使われる呼び名です。

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ベルティング

歌の指導の現場やミュージカルの舞台で、「明るく張った、力強い高音」を指して使われる呼び名です。

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references / 出典

  1. Roubeau, B., Henrich, N., & Castellengo, M. (2009). Laryngeal vibratory mechanisms: the notion of vocal register revisited. Journal of Voice, 23(4), 425-438.
  2. Cardoso, N. S. V., Brito, T. C. da S., & Gomes, A. de O. C. (2023). Passaggio on chorists' voice range profile: preliminary study of frequency and intensity. CoDAS, 35(4), e20200266.