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シンギング・フォルマント
高い方の成分のうち、ある高さだけが周りより強く出ている歌声は、その高さではオーケストラの音が弱いため、埋もれにくくなるとされています。
最終更新
シンギング・フォルマントとは、歌う声に現れる山(周りより音が強く出ている部分)のことです。人の声は、耳には一つの音として聞こえますが、実際には複数の高さの音(倍音)が重なってできています。西洋のオペラやコンサートで歌う男性歌手の母音を調べ、その中の高い方の成分のうち2.8kHz付近にこの山が現れると報告したのが、Sundberg(1974)の研究です。この数値は、母音を変えても大きくは動かないとされています。
なぜその山があると声が通るのか
歌う声の高い方の成分に現れる山が声の「通り」に関わるのは、オーケストラの音がその高さではあまり強くないからだと、Sundberg(1974)は説明しています。
男性のオペラ歌手の声を調べたSundberg(1974)の研究によると、オーケストラの音は2.8kHzあたりでは、いちばん強いところよりも20dB以上弱くなっています。音の波の大きさでいえば、10分の1以下ということです。この高さに声の成分を集めておくと、オーケストラの音にかき消されにくくなる、というのがSundbergの説明です。
この山は、同じ人の声にいつもあるわけではありません。Sundberg(1974)の研究には、プロの歌手ひとりが同じ母音を話したときと歌ったときの声を、並べて示した図が載っています。はっきりした山が出ていたのは、歌ったときだけでした。
この山は、声道が特定の高さの成分を強めることでできている
シンギング・フォルマントの山は、声道(のどから口までの空間)が特定の高さの成分を強めることでできています。
耳に届く声は、声帯が出す音(倍音の並び)と、声道による増幅を掛け合わせたものです。声道の形は、どの高さの帯域を強めるかを決めています。この、声道が強める特定の帯域の呼び名が「フォルマント」です。
男性の話し声には、別の名前の山が報告されている
歌声とは別に、男性の話し声にも山があることが報告されています(Nawka ほか, 1997)。
この研究で山が現れたのは3.15〜3.7kHz付近でした。調べたのは、かすれた声の人・普通の声の人・声を仕事で使う人の3つのグループです。この山は「話し手のフォルマント」と呼ばれており、現れる高さも、調べた対象も、シンギング・フォルマントとは違います。
シンギング・フォルマントと抜け(SPR)は、似ているが別のもの
シンギング・フォルマントは、男性歌手の歌声で2.8kHzあたりに現れる音の「山」そのものを指します。抜け(SPR)は、高い音のグループが低い音のグループよりどれだけ弱いかという「落差」の数字です。どちらも声の高い方の成分に注目していますが、見ている角度が違います。
シンギング・フォルマントの山は、ソプラノの高い音域では見られないことが多いとSundbergは書いています。一方でSPRという指標自体は、ソプラノを含めたどの声種にも使えるものとして提案されました(Omori ほか, 1996)。
HASSEI METERでの扱い
HASSEI METERが計測する3つの指標のうち、抜け(SPR)と芯(PEAK)の2つが、声の高い方の成分を見ています。ただし2つは見ている範囲も角度も違い、どちらもシンギング・フォルマントと同じものを測っているわけではありません。具体的な測り方は指標ごとに異なるため、詳しくは指標のページで確認してください。
次に読むもの
references / 出典
- Sundberg, J. (1974). Articulatory interpretation of the "singing formant". Journal of the Acoustical Society of America, 55(4), 838-844.
- Omori, K., Kacker, A., Carroll, L. M., Riley, W. D., & Blaugrund, S. M. (1996). Singing power ratio: Quantitative evaluation of singing voice quality. Journal of Voice, 10(3), 228-235.
- Nawka, T., Anders, L. C., Cebulla, M., & Zurakowski, D. (1997). The speaker's formant in male voices. Journal of Voice, 11(4), 422-428.